盗人に 取り残されし 窓の月
秋日和 千羽雀の 羽音かな
摩頂(まちょう)して ひとりたちけり 秋のかぜ
梅の花 散りは過ぐとも 我が宿に 香をだに残せ 春の形見に
道のべに 菫(すみれ)つみつつ 鉢の子を 我が忘るれど 取る人はなし
いざ子供 山べに行かむ 桜見に 明日とも言はば 散りもこそせめ
むらぎもの 心は和(な)ぎぬ 永き日に これの御園(みその)に 林を見れば
青山の 木ぬれたちぐき 時鳥(ほととぎす) 鳴くこゑ聞けば 春は過ぎけり
百鳥(ももとり)の 鳴く山里は いつしかも 蛙(かはづ)の声と なりにける
あしびきの 山田の田居(たゐ)に 鳴く蛙(かはづ) 声のはるけき この夕べかも
夏草の 茂りに茂り 我が宿は かりにだにやも 訪ふ人はなし
寂しさに 草の庵(いほり)を 出て見れば 稲葉動かし 秋風ぞ吹く
ゆく秋の あはれを誰に 語らまし あかざ籠(こ)にれて 帰る夕ぐれ
虫の音も 残り少なに なりにけり 夜な夜な風の 寒くしなれば
乙宮(おとみや)の 杉の陰道 踏みわけて 落葉拾うて この日暮らしつ
秋もやや うら淋しくぞ なりにける 草の庵を いざ鎖(とざ)してむ
たどたどと 山路の雪を 踏みわけて 草の庵を 訪ひし君はも
わが宿は 越(こし)の白山(しらやま) 冬ごもり 行き来の人の 跡かたもなし