T.(1 〜 99) U.(100 〜 199) V.(200 〜 299) W.(300 〜 399)
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1  夜の帳に ささめき盡きし 星の今を 下界の人の 鬢のほつれよ
2  歌にきけな 誰れ野の花に 紅き否む おもむきあるかな 春罪もつ子
3  髮五尺 ときなば水に やはらかき 少女ごころは 祕めて放たじ
4  血ぞもゆる かさむひと夜の 夢のやど 春を行く人 神おとしめな
5  椿それも 梅もさなりき 白かりき わが罪問はぬ 色桃に見る
6  その子二十 櫛にながるる 黒髮の おごりの春の うつくしきかな
7  堂の鐘の ひくきゆふべを 前髮の 桃のつぼみに 經たまへ君
8  紫に もみうらにほふ みだれ篋を かくしわづらふ 宵の春の神
9  臙脂色は 誰にかたらむ 血のゆらぎ 春のおもひの さかりの命
10  紫の 濃き虹説きし さかづきに 映る春の子 眉毛かぼそき
11  紺青を 絹にわが泣く 春の暮 やまぶきがさね 友歌ねびぬ
12  まゐる酒に 灯あかき宵を 歌たまへ 女はらから 牡丹に名なき
13  海棠に えうなくときし 紅すてて 夕雨みやる 瞳よたゆき
14  水にねし 嵯峨の大堰の ひと夜神 絽蚊帳の裾の 歌ひめたまへ
15  春の國 戀の御國の あさぼらけ しるきは髮か 梅花のあぶら
16  今はゆかむ さらばと云ひし 夜の神の 御裾さはりて わが髮ぬれぬ
17  細きわが うなじにあまる 御手のべて ささへたまへな 歸る夜の神
18  清水へ 祇園をよぎる 櫻月夜 こよひ逢ふ人 みなうつくしき
19  秋の神の 御衣より曳く 白き虹 ものおもふ子の 額に消えぬ
20  經はにがし 春のゆふべを 奧の院の 二十五菩薩 歌うけたまへ
21  山ごもり かくてあれなの みをしへよ 紅つくるころ 桃の花さかむ
22  とき髮に 室むつまじの 百合のかをり 消えをあやぶむ 夜の淡紅色よ
23  雲ぞ青き 來し夏姫が 朝の髮 うつくしいかな 水に流るる
24  夜の神の 朝のり歸る 羊とらへ ちさき枕の したにかくさむ
25  みぎはくる 牛かひ男 歌あれな 秋のみづうみ あまりさびしき
26  やは肌の あつき血汐に ふれも見で さびしからずや 道を説く君
27  許したまへ あらずばこその 今のわが身 うすむらさきの 酒うつくしき
28  わすれがたき とのみに趣味を みとめませ 説かじ紫 その秋の花
29  人かへさず 暮れむの春の 宵ごこち 小琴にもたす 亂れ亂れ髮
30  たまくらに 鬢のひとすぢ きれし音を 小琴と聞きし 春の夜の夢
31  春雨に ぬれて君こし 草の門よ おもはれ顏の 海棠の夕
32  小草いひぬ 『醉へる涙の 色にさかむ それまで斯くて 覺めざれな少女』
33  牧場いでて 南にはしる 水ながし さても緑の 野にふさふ君
34  春よ老いな 藤によりたる 夜の舞殿 ゐならぶ子らよ 束の間老いな
35  雨みゆる うき葉しら蓮 繪師の君に 傘まゐらする 三尺の船
36  御相いとど したしみやすき なつかしき 若葉木立の 中の蘆舍那佛
37  さて責むな 高きにのぼり 君みずや 紅の涙の 永劫のあと
38  春雨に ゆふべの宮を まよひ出でし 小羊君を のろはしの我れ
39  ゆあみする 泉の底の 小百合花 二十の夏を うつくしと見ぬ
40  みだれごこち まどひごごちぞ 頻なる 百合ふむ神に 乳おほひあへず
41  くれなゐの 薔薇のかさねの 唇に 靈の香のなき 歌のせますな
42  旅のやど 水に端居の 僧の君を いみじと泣きぬ 夏の夜の月
43  春の夜の 闇の中くる あまき風 しばしかの子が 髮に吹かざれ
44  水に飢ゑて 森をさまよふ 小羊の そのまなざしに 似たらずや君
45  誰ぞ夕 ひがし生駒の 山の上の まよひの雲に この子うらなへ
46  悔いますな おさへし袖に 折れし劔 つひの理想の 花に刺あらじ
47  額ごしに 曉の月みる 加茂川の 淺水色の みだれ藻染よ
48  御袖くくり かへりますかの 薄闇の 欄干夏の 加茂川の神
49  なほ許せ 御國遠くば 夜の御神 紅盃船に 送りまゐらせむ
50  狂ひの子 われに焔の 翅かろき 百三十里 あわただしの旅
51  今ここに かへりみすれば わがなさけ 闇をおそれぬ めしひに似たり
52  うつくしき 命を惜しと 神のいひぬ 願ひのそれは 果してし今
53  わかき小指 胡紛をとくに まどひあり 夕ぐれ寒き 木蓮の花
54  ゆるされし 朝よそほひの しばらくを 君に歌へな 山の鴬
55  ふしませと その間さがりし 春の宵 衣桁にかけし 御袖かつぎぬ
56  みだれ髮を 京の島田に かへし朝 ふしてゐませの 君ゆりおこす
57  しのび足に 君を追ひゆく 薄月夜 右のたもとの 文がらおもき
58  紫に 小草が上へ 影おちぬ 野の春かぜに 髮けづる朝
59  繪日傘を かなたの岸の 草になげ わたる小川よ 春の水ぬるき
60  しら壁へ 歌ひとつ染めむ ねがひにて 笠はあらざりき 二百里の旅
61  嵯峨の君を 歌に假せなの 朝のすさび すねし鏡の わが夏姿
62  ふさひ知らぬ 新婦かざす しら萩に 今宵の神の そと片笑みし
63  ひと枝の 野の梅をらば 足りぬべし これかりそめの かりそめの別れ
64  鴬は 君が聲よと もどきながら 緑のとばり そとかかげ見る
65  紫の 紅の滴り 花におちて 成りしかひなの 夢うたがふな
66  ほととぎす 嵯峨へは一里 京へ三里 水の清瀧 夜の明けやすき
67  紫の 理想の雲は ちぎれちぎれ 仰ぐわが空 それはた消えぬ
68  乳ぶさおさへ 神祕のとばり そとけりぬ ここなる花の 紅ぞ濃き
69  神の背に ひろきながめを ねがはずや 今かたかたの 袖ぞむらさき
70  とや心 朝の小琴の 四つの緒の ひとつを永久に 神きりすてし
71  ひく袖に 片笑もらす 春ぞわかき 朝のうしほの 戀のたはぶれ
72  くれの春 隣すむ畫師 うつくしき 今朝山吹に 聲わかかりし
73  郷人に となり邸の しら藤の 花はとのみに 問ひもかねたる
74  人にそひて 樒ささぐる こもり妻 母なる君を 御墓に泣きぬ
75  なにとなく 君に待たるる ここちして 出でし花野の 夕月夜かな
76  おばしまに おもひはてなき 身をもたせ 小萩をわたる 秋の風見る
77  ゆあみして 泉を出でし やははだに ふるるはつらき 人の世のきぬ
78  賣りし琴に むつびの曲を のせしひびき 逢魔がどきの 黒百合折れぬ
79  うすものの 二尺のたもと すべりおちて 螢ながるる 夜風の青き
80  戀ならぬ めざめたたずむ 野のひろさ 名なし小川の うつくしき夏
81  このおもひ 何とならむの まどひもちし その昨日すら さびしかりし我れ
82  おりたちて うつつなき身の 牡丹見ぬ そぞろや夜を 蝶のねにこし
83  その涙 のごふゑにしは 持たざりき さびしの水に 見し二十日月
84  水十里 ゆふべの船を あだにやりて 柳による子 ぬかうつくしき(をとめ)
85  旅の身の 大河ひとつ まどはむや 徐かに日記の 里の名けしぬ(旅びと)
86  小傘とりて 朝の水くむ 我とこそ 穗麥あをあを 小雨ふる里
87  おとに立ちて 小川をのぞく 乳母が小窓 小雨のなかに 山吹のちる
88  戀か血か 牡丹に盡きし 春のおもひ とのゐの宵の ひとり歌なき
89  長き歌を 牡丹にあれの 宵の殿 妻となる身の 我れぬけ出でし
90  春三月 柱おかぬ琴に 音たてぬ ふれしそぞろの 宵の亂れ髮
91  いづこまで 君は歸ると ゆふべ野に わが袖ひきぬ 翅ある童
92  ゆふぐれの 戸に倚り君が うたふ歌 『うき里去りて 徃きて歸らじ』
93  さびしさに 百二十里を そぞろ來ぬと 云ふ人あらば あらば如何ならむ
94  君が歌に 袖かみし子を 誰と知る 浪速の宿は 秋寒かりき
95  その日より 魂にわかれし 我れむくろ 美しと見ば 人にとぶらへ
96  今の我に 歌のありやを 問ひますな 柱なき纖絃 これ二十五絃
97  神のさだめ 命のひびき 終の我世 琴に斧うつ 音ききたまへ
98  人ふたり 無才の二字を 歌に笑みぬ 戀二萬年 ながき短き 蓮の花船
99  漕ぎかへる 夕船おそき 僧の君 紅蓮や多き しら蓮や多き
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